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  • 執筆者の写真Simon Yoh

一粒の麦 地に落ちて死ねば



2021.1030

《一粒の麦》


老いた父親と二人の息子がいました

母親は既に亡く

父親も死期が間近に迫っていました


二人の息子のうち

兄には三人の子どもがいて

弟は結婚の準備をしていました

二人は仲が悪く

父親の遺産相続を巡って対立していました


父親は二人を枕元に呼び

弟に命じて聖書を持ってこさせ

「放蕩息子」のところを読むように言いました

弟はその箇所を読みました

その数時間後に父親は息を引き取りました


遺産は米俵で一万俵ありました

兄弟は5千俵ずつ分けあうことにしました

お互いが倉庫を持ちその中に納めました


やがて兄は

「この分配は正しくない」と思い始めました

弟は結婚の準備にお金がかかるから

弟の取り分は自分より多くて良いはずだと思ったのです

しかし直接米俵を差し出しても弟は受け取らないだろう

兄は一計を案じました


皆が寝静まった真夜中に

米俵を一俵ずつ

弟の倉庫に運んでやろう


弟も

兄は結婚していて子どもが三人もいるのだから

自分より多くもらっても良いはずだと思い始めました


直接米俵を差し出しても

兄は受け取らないだろうから

夜の夜中に一俵ずつ兄の倉庫に運んでやろう


二人は夜十二時を過ぎると

それぞれ米俵を担ぎ相手の倉庫を目指して歩き始めました

幸いなことに

それぞれ別の道を選んだので

道の途中で鉢合せすることはありませんでした

毎日まいにち

二人は十二時を過ぎてから米俵を運び続けました


十日ほど過ぎたとき弟は思ったのです

この道は遠くて疲れるから別の道を通ることにしよう

弟が選んだ道は兄が通る道でした

そしてとうとう運命の日が来たのです


夜十二時過ぎに倉庫を出た二人は

米俵を背にして道の途中で出会いました

二人は会った瞬間に

お互いが何をしようとしているのかを悟りました


二人は道のそばに腰を降ろし

しばらく夜空を眺めていましたが

やがて抱き合って泣きました


二人のそれぞれのわがままな自分が死んだのです


405 Apr.8,2003

銅版画【P216 十字架の道行き VⅢ 第4留 イエス、母マリアに会う】

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